去る7/8、安倍晋三元首相が遊説中に狙撃され、亡くなりました。
そんな安倍氏の代名詞が「3本の矢」による経済政策、アベノミクスです。
今回は、亡くなられた安倍氏への哀悼の意も込め、彼が行った「3本の矢」による経済政策を改めて振り返ってみたい思います。
目次
【1】「3本の矢」誕生の経緯
アベノミクスの「3本の矢」は、2012年の第2次安倍内閣発足時に発表されました。
この第2次安倍内閣は安倍元首相自身「悪夢の3年間」と呼ぶ民主党政権の後を受けて発足したものでした。
もともと、第1次安倍内閣が発足した2006年時点でも、日本は所謂「失われた10年」による経済不況から立ち直れていませんでした。
そこへ東日本大震災が起こりました。
それに対し、当時の民主党政権が復興財源を増税で賄おうとした結果、震災と増税のWパンチでさらに景気は冷え込みました。
こうした状況下で発足したのが第2次安倍内閣であり、落ち込んだ日本経済を復活させるべく放たれたのがアベノミクスの「3本の矢」というわけです。
【2】新旧「3本の矢」とは?
「3本の矢」には2012年に初めて発表されたものと、その後、2015に発表されたものの2つがあります。
この記事では便宜上、2012年のものを「旧3本の矢」、2015年のものを「新3本の矢」と呼び、それぞれについて説明していきます。
2-1「旧3本の矢」の内容
➀大胆な金融政策
これは簡単に言えば、市場のお金を増やすことで経済を活性化させることを目指す金融緩和政策です。
デフレとは物の値段が下がることです。
消費者目線では一見、良いことのように思えますが、物の値段が下がれば、その分、企業の利益は出ません。
当然、賃金も上がらないため、物の値段が下がっても消費活動に繋がらず、経済は活性化しないのです。
その状態を改善するための金融緩和政策というわけです。
➁機動的な財政政策
財政政策とは、政府主導で経済を変えていくことです。
具体的には公共事業を増やし、その工事を民間の建設会社などへ委託することで、民間企業を潤し、景気回復のきっかけにするというものです。
➂民間投資を喚起する成長戦略
ここで言う成長戦略とは規制緩和による民間企業の活性化や、外国との貿易自由化による経済成長を指します。
規制緩和により各業界への新規参入が進めば、競争が起こり、質の高いサービスや商品が生まれ、日本経済全体の生産性も向上するのではないかという狙いがあります。
貿易自由化についてはTPP(環太平洋経済連携協定)への参加が象徴的です。
☆ワンポイントワード解説☆
TPP…太平洋を囲む国々が関税を下げ、より自由な貿易を行おうという経済的枠組み
こうした枠組みに参加し、関税が下がれば輸出による利益が増え、経済が活性化するという狙いがあります。
ただし、TPPに関しては国内の零細農家へのダメージが大きすぎるという批判もあります。
2-2「旧3本の矢」の課題
「旧3本の矢」の課題としては、以下の2つが挙げられます。
➀金融政策によるインフレ化でも消費活動が活性化しなかった
インフレで給料も上がれば良かったのですが、実際はそうはならず、消費活動も思ったほど伸びませんでした。
インフレ自体も2%台の物価上昇という目標を達成できませんでした。
➁民間企業への負担増
良かれと思って増やした公共事業が、逆に民間事業の負担を増すことになってしまいました。
企業が仕事を受け、利益をあげるには、その仕事を受けられるだけの資材、人材が揃っていることが前提です。
それが整っていないところへ「大きな仕事」だけ投げたため、ただの無茶振りになってしまったというわけです。
こうした課題を解決すべく生まれたのが次に説明する「新3本の矢」です。
2-3「新3本の矢」の内容
➀希望を生み出す強い経済
これは、「旧3本の矢」をまとめたようなもので、引き続き金融政策や規制緩和に取り組んでいく、というものです。
➁夢を紡ぐ子育て支援
これは人口減少を食い止めるための子育て支援策です。
具体的には、出産前の婚活や不妊治療への支援や、出産後に子どもを預けられる保育所を充実させ、女性の働きやすい環境作りといったことが挙げられます。
➂安心につながる社会保障
これは、高齢化社会に向けた政策です。
具体的には、介護士の人材不足など介護を巡る問題を国が支援すること、また、高齢者の働ける環境を整備するなど高齢者がいきいき生活できる仕組み作りなどが挙げられます。
【3】新旧「3本の矢」の総括
新旧合わせた「3本の矢」については成果と残された課題があります。
3-1新旧「3本の矢」の成果
➀就業人口の増加
第2次安倍内閣発足時には約6,271万人だった就業者数がアベノミクスの実施後には6年連続で増加しました。
2020年の段階では、約6,628万人にまで増えています。
➁正社員の有効求人倍率の増加
正社員の有効求人倍率も2012年の0.50倍から、2020年の1.13倍へと増加しています。
完全失業率も2012年には4.3%でしたが、2020年では2.6%となっています。
➂株価の上昇
金融緩和政策が奏功し、円安によって輸出業が好調となり、企業の利益も増え、株価も上昇しました。
3-2新旧「3本の矢」の残された課題
➀経済成長率が2%を達成していない
アベノミクスは毎年2%の経済成長率を目指していましたが、未達に終わっています。
GDPの規模も掲げていた目標には達しませんでした。
➁実質賃金が上がっていない
金融緩和政策などでデフレ脱却を目指しましたが、実質賃金が上がるまでには経済は回復しませんでした。
結果、現政権でも金融緩和政策が続いていますが、どれほどの効果がいつ出るかは不透明です。
まとめ
今回は安倍元首相の訃報に接し、彼が行ったアベノミクス「3本の矢」について改めて解説しました。
今後の日本の政治経済がどうなるかわかりませんが、興味を持って注意深く見守っていく必要があるでしょう。